ブルーツナギとポリバケツ
 
 
 
 むかしね・・・
 
 わてはブルーの作業着(青いツナギ)を着て、
 青いポリバケツとモップをもって、
 あちこちの公共施設を清掃するアルバイトをしていたことがある。
 
 
 フランスの歌手アダモさんの「ブルージーンズと皮ジャンバー」はカッコいいけど、そうじゃなくって「ブルーツナギとポリバケツ」。
 
 
 ・・・あれ?、最近のひとはアダモさんは知らんかの・・・。
 
 んで、もしかすっと「アダモステ」も知らんかの・・・?
 
 
 お・・・、いや、いま検索したら、アダモステはさすがにたくさん出てくるな。
 
 伝説のバラエティー番組「オレたちひょうきん族」の「タケちゃんマン」のコーナーで、ヒップアップの島崎敏郎さんがやってたアダモちゃん。
 
 現在AKB48の超選抜メンバー「ぱるる」さんが、以前、塩対応でくすぶってて、まだ選抜メンバーでなかったころ、ナイナイの矢部さんと岡村さんの応援を受けたバラエティ番組で、「アダモステ」さんも登場してたんだけど、・・・いや・・・あ、それも知らない・・・かな・・・。
 
 
 ま、そんなん、どーでもええわ!!
 
 
 とにかくだ、
 わては、ある時期、ブルーツナギとポリバケツであっちこっちの現場に清掃に行っていた。現場は公共施設がメインだったんで、東京23区内の図書館とか、公立学校とか、役所とか、老人ホーム的な施設とか病院とか、毎日毎日、あっちこっちに出かけていって、いろんな現場で、楽しくお掃除の仕事をしていただ。
 
 
 おもしろいな〜と思うことが、いっぱいあっただよ。
 現場ごとに仕事の内容も違うので、毎日が新しい経験だったし、
 
 ああいう仕事って、昼食は会社が支払ってくれたので、
 毎日、お昼ご飯は、好きなものをいっぱい食べて、
 ほんとうに機嫌よく働いていられた。
 同僚もおもしろいやつばっかでね、楽しかった。
 
 具体的に名前を出したら面白いところもあるけど、
 ま、それはやめといて・・・
 
 例えば、東京都内には超進学校がいくつかあるけど、
 そういう超進学校の近所の図書館にいくと、
 ピリピリっと張り詰めた空気の中で、頑張って勉強してる、
 ま、おぼっちゃま、おじょうちゃまが、たくさんいるんです。
 
 で、そういう場所にわてらが「ブルーツナギとポリバケツ」の格好で入ってゆくと、
 
 超進学校のみなさんは、おおむね、迷惑そうな感じで、
 「いまボクは難しい問題を解いてるのだから、ガサガサしないで欲しいデス」というような、すました雰囲気になる。ま、そりゃそうだろうな〜とは思うけど、こっちだって、好きでガサガサしてるんじゃあるまいし、その迷惑顔やめな・・・!!と云いたくなる。
 
 で、チラッとそいつのやってる問題とか見ると、ばかみたいに簡単な問題だったり、程度低い英文解釈だったり、
 そうなると、こっちは、ぶわ〜か! そこ間違ってんぞ!! と、こころのなかで思い切りツッコミを入れてやる。
 
 でも、ま、受験生である高校生はかわいそうなので、「はいはい静かにしますよ・・」と、けっこう気をつかってましたよ。
 
 
 気をつかわなくてよかったのは、夜のお商売のお姉さんたち。
 
 銀座とかの夜のお商売は、
 ちゃんと朝礼みたいな(夕方だけど)、全体のミーティングもやってるし、みなさんプロの意識をもって、きっちりと訓練を受けた洗練された雰囲気です。
 
 不思議なことに、お姉さんたちは、
 「ブルーツナギとポリバケツ」のおらたちに、たいへん親切でした。ちやほやしてくれる。おらたちは、彼女たちの更衣室も入るけんども、あれこれ食べるものをくれたりする。
 
 そりゃさ、彼女たちが相手にするお客さんって、1時間で何万円もつかうひとたちで、おらたちは時給数百円だから、どうなんだろう・・・ブルーの作業着を着たお兄ちゃんたちが、おもしろかったのかな・・・。
 
 
 なあんて、そんなことを仕事仲間としゃべってたら、
 あるとき、
 ・・・いや、そうでもないぞ・・・
 と、云い始めたヤツがいて、
 
 そいつが云うには、
 「姉ちゃんに聞いたら、オンナって、自分と関係ない世界の男の反応をおもしろがるんだって」
 「じゃ、結局おもしろがってるだけじゃん」
 「いや、反応をみて、いろいろ参考にするんだって・・・」
 「・・どいうこと?」
 「なんか、髪型とか、化粧とか、どう思うか反応をためすとか・・」
 「・・わかんない・・・」
 
 
 こんな、どうでもいい、あほなことをしゃべっていたんだけど、
 あるとき、みんなで、ピカ〜〜〜っと、
 そいつの「お姉様」のお言葉の意味を知るときがあっただな。
 
 あるとき、わてらは新宿にある有名な神社のまえで、
 各自「ブルーツナギとポリバケツ +モップ」という格好で、わちゃわちゃとたたずんでいた。
 
 いつもの通り、ばかみたいな話をして、げへへへ・・なんて下品に笑っていたんだけど、さっきから目の前を通り過ぎる女性が、みなさん夜のお商売なのか、服装もきっちりしていて、お顔もスタイルもスキがなく美しく、ああ・・そうかと思い始めたころ、
 
 ひとりのばかが、「うわ・・きれいだ・・!!」
 と、けっこう大きな声で叫ぶように云ったんだの・・・。
 全員、ブルーツナギとポリバケツ(←青)だす。
 
 そうすると、お姉さん、躊躇しながら、こっちを振り返って満面の笑みで会釈した。
 
 そんとき、おらは、ああああ彼女は喜んだ・・・と思った。
 失礼にあたる行為ではなく、
 彼女は、なんか、とっても嬉しそうな顔をした。
 そして、振り返って、会釈してくれた。
 
 
 このときのことを思い出すと、
 あのとき、ネクタイを締めたスーツ姿の男たちに、
 「うわ・・きれいだ・・」
 と云われたなら、彼女は振り返ってくれただろうか・・と疑問に思うのだ〜よ。
 
 たしかにね、
 ブルーツナギとポリバケツの男たちだったから彼女は反応してくれた・・と、なんとなく、そう思ってます。
 
 
 
 
 
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