ちゅざねんさん
 
 
 
 地道に働いて貯金通帳の残高が増えたころ、
 
 調子に乗ったおらは、
 
 航空会社のひとから「世界一周便」ってのがあって、
 
 すごく好評なんで、ご利用いかがですか? ・・なあんて具合で、
 
 そのはなしに乗っかった。
 
 
 あっちこっち行ってみたかったので、ヨーロッパもアメリカも同時に行けるんなら、なんか、お得なんではないか・・・くらいの気持ちで旅立ったんだの。
 
 
 今回のはなしは、人生で珍しくも「いきどーり」っつうもんを感じたときのことなんです。
 
 
 んで、最初はロンドンに行ってみた。
 あ、このときだ〜よ。赤っ恥かいたの。
 んで、次にニューヨーク。
 
 
 おらはの、子供のころから絵がへたで、美術とかそんなに好きじゃなかった、っつうか興味がなかったんだけんども、
 
 ロンドン5泊、ニューヨーク5泊くらいの日程で、たっぷり観光時間はあるから、有名な美術館には行ってみただ・・・
 
 すっと、はっと驚くようないい絵があった。
 
 まず最初に発見したのはロンドンのコートールド美術館(←たしか・・)。
 
 作者名のプレートには「ちゅざねん(chuzanenみたいなスペル)」が表記されてた。
 
 
 「ちゅざねん・・・」「・・・日本では無名の画家だな・・・・」
 
 と思いながら、よその美術館をみてたとき、また、
 
 この絵いいな・・・と思ってネームの表記を見ると「ちゅざねん」。
 
 む〜〜ん・・・イギリスでは人気があるんだな・・・。
 
 
 日本では知られていなくても海外では有名な画家とかはいるだろうから、そんときは、イギリスでは「ちゅざねんさん」は人気があるんだな、そのうち日本でも有名になるんだべな・・・みたいな、そんな気持ちでロンドンからニューヨークへ、びゅ〜〜んと、移動しただ。飛行機から、ボストン郊外の「ケープコッド」が見えたときは、感動しただよ。清教徒、メイフラワー号。アメリカの歴史の始まり(←・・まちがってっか?)。
 
 イギリスから新世界を求めて清教徒のみなさんが苦しく長い航海をなさった大西洋を、おらは、ふんぞり返ってワインなんか飲んじゃって、でもまあ、いろんな感慨にひたって・・・しみじみと・・・しただよ。
 
 
 ほいで、ニューヨークに着いて、あっちこっち行ったけんども、あっこには、メトロポリタン美術館とか、グッゲンハイム美術館とか、超有名な美術館がごろごろあるわけで・・・・で、行ってみた。
 
 そしたらの・・・また・・・
 
 ・・・あれ、これいい絵だの・・・と思うのがあって、ネームみると、ちゅざねんさん! ではね〜〜か!!
 
 コト、ここに至って、おらは、腹のソコから、ぐわわわわ〜っと「いきどーり」っつうモンがわき上がってきた。
 
 
 どういうことかって、イギリスや、アメリカで、これほど高い評価を受けている「ちゅざねん」さんが、日本では、まったく無名のままでね〜〜か。
 
 
   これは、いかん。
 
 
 そう思ったおらは、ホテルに戻り、さっそく日本のラクーン先生に宛てて「いきどーり」の感情を込めた手紙を書いた。
 
 「あんた、ちゅざねんさん知ってるか? 日本では無名だけど、こっちでは高い評価を受けてる・・・スペルは、chuzanen・・・・」と書いたところで、
 
 
 ・・・・ん?
 
 あれ・・・、「h」入ってたかな・・・おれ、目わるいからな・・・
 
 ・・・「u」だったかな・・・・目わるいからな・・・
 
 
 と、ちょっと間をおいて、スペルを思い出そうとしてたら、
 
 不思議なもんで、さっと天から光が差すように、
 
 「cezanen」というスペルがあたまに浮かんだ・・・・
 
 ・・・・セザンヌ?
 
 
 はい、このとき思い浮かんだスペルは間違ってますけど、日本に帰って調べたら、セザンヌさんだったのでした。
 正しくは、「Paul Cézanne」と表記されるようでして、
 フランス語を読めないおらは、
 「Cé」が「ch」にみえて、
 「nne」が「nen」にみえたのでした。
 
 
 ほんとうに、ばかを救う道は・・・遠い。
 
 
 
 
 
 
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