調子に乗ってっと!
 
 
 
 学生のころ「ニューヨークに行ってきた」という友人がいたので、
 
 「怖くなかった?」と訊いたら「ぜんぜん・・すごく安全な感じで・・」
 
 っちゅうような会話をしたので、
 
 おらも、いつか行ってみてぃなあ・・・・
 
 っちゅうような、あこがれ、みたいな気持ちがあっただよ。
 
 
 ほんで、食うに困らなくなって、腹がぐぐっとせり出してきたころ、
 
 念願のニューヨーク行きが決定したのであった。
 
 あれ、不思議なもんで、田舎の人が東京に行くときの感じ、そういう、なんか、おのぼりさん的な感じがあったな。
 
 
 そんで、行ってみると、ニューヨークって緑も多いし、なんかのんびりしていて、ひとが歩くスピードもゆったりしてるし、
 
 ・・・イメージと違うなあ・・・と思いながら一週間ほど滞在して日本に戻ってきた。
 
 
 んで、調子に乗ったオラは、もっかいニューヨーク行ってみる・・・
 
 っちゅうことで、今度はホテルのランクも落としましてですね、「もうね、ニューヨークなんてぜんぜん大丈夫」みたいな、ま、ばか丸出しモードのまま旅だったのでありました。
 
 
 地下鉄にも、バスにも慣れ、マンハッタン島の郊外にも列車で行き、
 
 もう、自由自在、どこにでも行けまっせ、得意満面だす。
 
 ニューヨークではしょっちゅう道を訊かれるんだけど、
 
 わかるところは得意になって教え、ま、調子に乗ってました。どういうわけだか、ほんとに、おら、道をきかれるんだ・・。中華街で中国系の人に道をきかれるのは当たりまえとして、腹まわりのウエストサイズがおらの身長くらいありそうな黒人女性(おばちゃん)に道をきかれたり、南米の若い女性旅行者に建物の場所を尋ねられたり、地下鉄の入り口を質問されたり。
 
 んだけども、「おごれる者ひさしからず・・」
 
 
 まず、最初のはなし。
 
 あるとき、地下鉄に乗ってて、そうすっと、車内アナウンスがごにょごにょ云ってんだけど、
 
 「・・なんか云ってんな・・・」と思ってスルーしてたら(←早口英語が聞きとれんのじゃ!)、
 
 動き出して、ぐわわわわわ〜〜ぐにゅぐにゅにゅ〜っと曲線部を通過して、ぱたっと、まっくらなところで停車した。
 
 で、し〜〜〜ん・・・・となったので、まわりをよく見ると、
 
 同じ車両のとお〜くの方に、若い女性がひとりいるだけで、
 
 むこうの若い女性は不安そうにコッチをみてる。
 
 
 あらら・・・とおもってたら、
 
 その女性が、せっぱ詰まったような感じでこっちに歩いて来て、おらの隣に腰掛け「どうなってるの? どうなるんだろう?」と、焦ってしゃべる。
 
 彼女は、いま自分がどのあたりに居るのかもわからない様子で、地図をとりだして現在地はどこであるか尋ねるので、たぶん・・このあたり・・と場所を教えた。南米スペイン語圏の綺麗な女性で、旅行ではじめてニューヨークに来てるんです、と、おっしゃる。
 
 彼女は、もしかして生まれてはじめて地下鉄に乗ったかもしれないので、
 
 「・・・えと、よくはわからないけど、5分くらいで動き出すと思うヨ」と応えてあげた。「ホント?」「たぶん」
 
 シ〜〜ン、まっくら・・・・
 
 ほんで、どっから来たの? とか、地下鉄の車両待機とか、とりあえずの会話をしてたら、地下鉄は、反対方向に動き出して明るいホームのある地下鉄駅に到着した。若い女性はほっとした表情で、自分の目的地に行くために乗り換えホームに向かっていきました。
 
 
 でも、やっぱり、危ないな・・と思ったことはあるだよ。
 
 マンハッタン島を南北に走る地下鉄はいっぱいあるけど、そんなかのAラインという列車。
 
 ほいで、ある朝、慣れた調子でAラインに乗って目的地に向かっていたら・・、いつもは停車するはずの駅を高速で通過して、あれっ・・? なあんて思ってるうちに、がんがんスピード出しやがって・・・・おおおおお? と驚いてるうちに、とまるはずの駅をつぎつぎとすっ飛ばして、ありゃりゃ・・・と不安になったころ、やっと、止まってくれた。
 
 (北)145丁目。
 
 む〜〜〜ん、こりゃ・・・、ニューヨーク行ったことのあるひとなら、
 
 ご愁傷様・・・・
 
 くらいな感じになるような、ハーレムのど真ん中。・・・ディープ。
 
 ガイドブックの「危険度カラー表示」では真っ赤々、炎の赤、で危険が示されている五つ星の場所ね。
 
 
 いくら安全になったとはいえ、
 
 いや、そりゃ、ハーレムだって観光名所があるところはひとりで歩いたことはあるけんども、あっこらへんは、たしか125丁目だし・・・
 
 145って、深いし、やばくな〜い?  ・・・みたいな。
 
 道を一本わたるだけで、ガラッと世界が変わるのがニューヨーク。
 
 
 
 でも、何事も経験だ!
 
 最初から偏見をもってはいかん!!
 
 と、自分を鼓舞しまして、列車を降りて外に出ました。
 
 用事もあったんです。どっかで切手を買って早い時間に郵便を出したい。
 
 
 地下鉄駅の階段をはいあがって、そとに出ると、空は快晴。
 
 すがすがしい朝。
 
 
 しかも、運の良いことに、ちょっと歩くと小さな雑貨店があって、切手も売っていそうな雰囲気。店の中に入ってゆくと、(ここから記憶があいまいになるけど)、たしか、切手は売ってて、それを買ったはず(記憶が飛んでます)。
 
 店の人に「切手ありますか?」みたいに尋ねようとしたら、
 
 そこに、さささ〜っと登場してきたのがですね、まあ、なんというか、ナオミ・キャンベルさんのような長身の黒人女性で、もちろん、おらよりもずっと背が高く、
 
 晴天の朝なのに、お姉さんが登場した瞬間に、タブーとか、艶っぽいムードミュージックが流れてくるような、夜の雰囲気になってしまったような、
 
 もうね、一瞬で世界を変える雰囲気の女性でして、
 
 すすっと近寄ってきまして、にこ〜っとした笑顔で「・・少しの間、どう・・?」みたいなことを云われた(←記憶が飛んでます)のでした。さすがにですね、あ、こりゃまずいわ・・・と思って、
 
 でも、早朝であるのが幸いして、「ミーは郵便を出す急ぎの仕事があって、いま、地下鉄駅でひとが待ってるのです」と、おちついた口調で応答し、「時間があれば良かったのですが・・とても残念です」という雰囲気を醸し出しつつ、じりじりっと店を脱出したのでした。
 
 でもですね、びしっと、けっこう高めのスーツ着てて、長身で小顔だし、艶っぽいし、翌年、世界のトップモデルになっててもおかしくないような雰囲気の女性でした。彼女のその後の人生は知りませんけど、幸せだったらいいな。
 
 
 
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 あ、そうそう、忘れるとこだった。
 地下鉄のAラインは、ジャズの「A列車で行こう」でも有名ですが、
 瞑想系の話題としては、
 ヨガナンダ先生が、このA列車の中で、自叙伝に書かれている「宇宙意識」という詞を書きました。A列車の中であっという間にできたということです(「THE PATH」←だったはず)。
 
 
 
 
 
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